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インド・ラージャスターン州「チットールガル城」—インド最大級の要塞都市に刻まれた誇りと伝説

ラジャスタンの丘にそびえるチットールガル城を水彩画風に表現した作品。城壁や塔が緑に囲まれ、前景には水面が反射している横長の風景画。

インドのラージャスターン州には、数々の壮大な城塞が点在しています。その中でもひときわ存在感を放つのが チットールガル城(Chittorgarh Fort/चित्तौड़ दुर्ग) です。

この城は単なる遺跡ではなく、インド最大級の規模を誇る要塞都市であり、幾度となく繰り返された戦いと誇り、そして悲劇と美の物語を今に伝えています。


🏰 インド最大級の要塞都市

チットールガル城は、総面積約280ヘクタール、城壁の長さはおよそ 13km にも及びます。
丘の上に広がるその姿は、まるで石の大地そのものが要塞と化したようで、「城塞都市」という言葉がふさわしいスケール感を持っています。

他のラージャスターン州の名城、例えばジャイサルメール城やアンベール城と比べても、その広大さと複雑な構造は圧倒的です。ここには王宮跡、寺院、池、塔などが点在し、かつて数万人規模の人々が暮らしていた「都市型要塞」の姿を今に伝えています。


⚔️ 戦いとジョーハルの伝説

この城が特に有名なのは、ラージプート族の誇り高き戦いの舞台であった点です。
7世紀の創建以来、デリー・スルターン朝やムガル帝国と幾度も衝突し、その度に壮絶な攻防戦が繰り広げられました。

しかし、城が陥落する際に繰り返されたのが「ジョーハル(Jauhar)」と呼ばれる習慣です。これは、敵に屈するよりも誇りを守るために、城内の女性たちが炎に身を投じたと伝えられる集団自害のこと。
特に「パドミニ王妃(Padmavati/パドミニ)」の伝説は有名で、彼女の美しさに魅せられたアラーウッディーン・ハルジーが攻め入ったことから、悲劇的なジョーハルが起きたとされています。

この物語は、詩や演劇、さらには映画『Padmaavat(パドマーワト)』にも描かれ、インドの人々の心に深く刻まれています。


🌟 勝利と名誉を象徴する塔

チットールガル城内で特に目を引くのが、2つの象徴的な塔です。

  • ヴィジェイ・スタンブ(勝利の塔)
    15世紀に建てられた高さ約37mの塔で、外壁にはヒンドゥー神々や戦士たちの彫刻が細かく刻まれています。まさに「勝利と信仰の記録書」といえる存在です。

  • キーラティ・スタンブ(名誉の塔)
    より古い時代に築かれたジャイナ教の塔で、宗教的多様性と精神的寛容を象徴しています。

この2つの塔は、戦いの歴史の中でも「精神的支柱」として人々を支えた象徴物といえるでしょう。


🌍 世界遺産としての価値

2013年、チットールガル城は「ラージャスターンの丘陵城塞群」のひとつとしてユネスコ世界遺産に登録されました。
登録理由は、その 壮大な規模・建築美・歴史的重要性 に加え、「戦いと誇りの記憶」を今に伝える文化的価値にあります。

同じグループにはアンベール城やランタンボール城なども含まれますが、最大の規模と最も劇的な物語性を持つチットールガル城は、まさに「ラージャスターンの城塞群の王」と呼ぶにふさわしい存在です。


✨ 読者へのメッセージ

チットールガル城は、インドの歴史において「誇り」「犠牲」「美」のすべてが刻まれた特別な場所です。広大な城壁や壮麗な塔を眺めれば、そこに生きた人々の勇気と魂が今も伝わってきます。もしラージャスターンを訪れるなら、単なる遺跡巡りではなく「歴史と伝説に触れる旅」として、ぜひチットールガル城を歩いてみてください。その瞬間、あなた自身もインドの叙事詩の一部となることでしょう。

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