9月19日は「苗字の日」と呼ばれています。この日は、私たち日本人にとって欠かすことのできない「名字」が全国民に解放された歴史的な節目の日なのです。
苗字がなかった庶民の時代
江戸時代まで、苗字を堂々と名乗ることが許されていたのは公家や武士など限られた身分の人々でした。農民や町人は通称や屋号を日常的に使っていたものの、公式な場では苗字を記すことはできませんでした。つまり、当時の大多数の庶民にとって「名字を持つ」ことは夢のような話だったのです。
明治政府の改革と「平民苗字許可令」
時代が大きく変わったのは、1870年(明治3年)9月19日のこと。この日、明治政府は「平民苗字許可令」を公布し、庶民も苗字を名乗ることを“許可”しました。近代国家を築くために国民一人ひとりを戸籍で管理する必要があったことが背景にあります。
ただし、この段階ではあくまで「許可」であり、「義務」ではありませんでした。そのため苗字をつけない人も多く、社会に広く浸透するまでには時間がかかりました。
「苗字必称義務令」で全員が名字を持つことに
1875年(明治8年)、政府は「苗字必称義務令」を定め、すべての国民に苗字を名乗ることを義務付けました。ここからようやく、日本人全員が公式に名字を持つ時代が始まったのです。現代の私たちが当たり前に「姓と名」を名乗れるのは、この法令の流れがあったからこそといえます。
日本は「苗字大国」
現在、日本には約30万種類以上の苗字が存在するといわれています。これは世界的に見ても非常に多い数字です。たとえば、中国の苗字は数千種類、韓国では数百種類とされており、日本の多様さは際立っています。
「佐藤」「鈴木」「高橋」といった全国的に広がる名字がある一方で、「小鳥遊(たかなし)」「四月一日(わたぬき)」「月見里(やまなし)」「左右田(そうだ)」など、漢字の意味と読みがユニークに組み合わされた苗字も存在します。また、「勘解由小路(かでのこうじ)」「一尺八寸(いっしゃくはっすん)」のように、歴史や地名に由来する独特の苗字も珍しさで知られています。
名字にまつわる豆知識
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名字の由来の多くは地名
日本の苗字の約8割は地名に由来しているといわれています。山や川、谷や田など自然を表す漢字が多く使われているのはそのためです。 -
同じ名字でも地域で読み方が違う
「青木」を「あおき」と読む地域もあれば「あおぎ」と読む土地もあるなど、同じ漢字でも地域ごとに読みが変わることがあります。 -
名字ランキングの変化
明治時代には「佐藤」が圧倒的に多かったわけではなく、時代が進むにつれて人口移動や結婚で上位の名字が変化してきたといわれています。
苗字の日が持つ意味
「苗字の日」は、単なる記念日ではありません。これは、日本人が一人の「個」として社会に認識され、戸籍制度とともに近代国家の国民として位置づけられた始まりの日ともいえるのです。
日常の中で当たり前に使っている自分の苗字も、歴史を遡れば明治という大改革の産物。そのことに思いを馳せると、普段何気なく呼ばれている名前により深い意味を感じられるのではないでしょうか。
読者へのメッセージ
あなたが持つ苗字にも、必ず何かしらの由来や歴史が隠されています。地域の風土や先祖の営みを映し出す「名字」は、日本文化の大切な一部です。もし興味を持ったら、自分の名字のルーツを調べてみてください。意外な発見や、家族の絆を再確認できるかもしれません。
自分の名前に誇りを持ち、そこに宿る物語を感じながら日々を過ごしてみませんか?
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