ヨーロッパには数多くの温泉地がありますが、
その中でも別格の存在とされるのが、チェコ西部の温泉保養地
**カルロヴィ・ヴァリ(Karlovy Vary)**です。
日本の温泉とはまったく異なる発展を遂げたこの街は、
「浸かる」のではなく「飲む」ことで体を整える、
医療と文化が融合した温泉都市として世界的に知られています。
この記事では、単なる観光情報ではなく、
歴史・科学・文化・雑学を横断的に掘り下げながら、
カルロヴィ・ヴァリがなぜ“特別な温泉地”なのかを解説します。
皇帝が発見した温泉 ― カルロヴィ・ヴァリ誕生の伝説
カルロヴィ・ヴァリの起源は、14世紀にまでさかのぼります。
神聖ローマ皇帝 **カール4世(チェコ名:カレル4世)**が狩猟中、
傷ついた鹿が温泉に浸かり、回復していく姿を目撃した――
そんな伝説が街の始まりとして語り継がれています。
この出来事をきっかけに皇帝は温泉の効能に注目し、
この地に保養地を築くことを命じました。
街の名前 「Karlovy Vary」 は、
直訳すると 「カールの温泉」。
まさに、皇帝の名を冠した温泉都市なのです。
実は70以上ある温泉源
「公式12泉」に隠された真実
カルロヴィ・ヴァリには、
**「12の主要温泉(12泉)」**があると紹介されることが多いですが、
これはあくまで伝統的な区分。
実際には、
市内と周辺地域に湧き出る温泉源は 70以上にものぼります。
なかでも象徴的なのが、
**ヴジーデルニ・コロナーダ(噴泉回廊)**の間欠泉。
湯温:約72℃
噴出高:最大約12メートル
という圧倒的な迫力を誇り、
「街そのものが温泉の上に成り立っている」
ことを実感させてくれます。
浸からない?カルロヴィ・ヴァリの温泉文化
主役は“飲泉療法”
日本の温泉文化と最も異なる点が、
温泉の利用方法です。
カルロヴィ・ヴァリでは、
温泉は基本的に 飲むもの。
街を歩くと、
先端が細く湾曲した独特の磁器製カップを手に、
温泉水を少しずつ味わう人々の姿が見られます。
この飲泉療法は、
胃腸機能の改善
肝臓・胆のうの働きを助ける
代謝バランスの調整
といった効果を目的とした、
医学的に体系化された温泉治療なのです。
カルロヴィ・ヴァリは、
「癒やしの観光地」であると同時に、
治療と予防のための温泉都市でもあります。
ヨーロッパ貴族と芸術家が集った社交の街
19世紀、カルロヴィ・ヴァリは
ヨーロッパ上流階級の一大社交場でした。
この街を訪れた人物には、
ゲーテ
ベートーヴェン
ショパン
トルストイ
など、歴史に名を残す文化人が名を連ねます。
温泉で体を整え、
回廊を散策し、
夜は音楽や会話を楽しむ――。
カルロヴィ・ヴァリは、
健康・文化・交流が同時に成立する場だったのです。
世界的映画祭の開催地という顔
現代のカルロヴィ・ヴァリを語るうえで欠かせないのが、
カルロヴィ・ヴァリ国際映画祭。
この映画祭は、
カンヌ・ベルリン・ヴェネツィアと並び称されることもある
中欧最大級の国際映画祭です。
温泉街にレッドカーペットが敷かれ、
歴史ある街並みが映画文化で彩られる光景は、
この街ならではの非日常的な魅力と言えるでしょう。
薬として生まれた名酒「ベヘロフカ」
チェコの国民的リキュール
**ベヘロフカ(Becherovka)**も、
実はカルロヴィ・ヴァリ生まれ。
もともとは
胃腸の不調を整えるための薬酒として開発されました。
ハーブの香りと独特の苦味は、
まさに「飲む薬」の名残。
温泉 → 消化 → 薬酒
という流れが自然に存在するのは、
この街が体を整える文化の集積地である証です。
街全体が世界遺産
ユネスコが評価した“温泉都市の完成形”
カルロヴィ・ヴァリは、
2021年に ユネスコ世界遺産
「ヨーロッパの大温泉保養地群」の一部として登録されました。
評価対象は、
単なる温泉そのものではありません。
温泉を中心に形成された都市構造
医療と保養の歴史
回廊建築や街並み
これらすべてが、
人類が築き上げた温泉文化の完成形として認められたのです。
カルロヴィ・ヴァリは“思想としての温泉”
カルロヴィ・ヴァリは、
ただリラックスするための場所ではありません。
それは、
**「どう生き、どう整えるか」**を問い続けてきた街。
皇帝の時代から続く温泉医学
文化人が集った知の交流
現代まで受け継がれる保養思想
この街の温泉は、
体だけでなく、
価値観そのものを温めてくれる存在なのです。
読者へのメッセージ
もし、
「日本の温泉とは違う世界を知ってみたい」
そう感じたことがあるなら、
カルロヴィ・ヴァリはきっと心に残る場所になります。
旅に出なくても、
その背景を知るだけで、
温泉という存在の奥深さが変わって見えるはずです。

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