私たちの未来を守るカギは、海辺の静かな森にあった。
7月26日は「国際マングローブの日(International Day for the Conservation of the Mangrove Ecosystem)」。この記念日は、世界的に失われつつあるマングローブ生態系の保全と持続可能な活用を啓発するために、ユネスコ(UNESCO)により2015年に制定されました。
記念日の由来となったのは、2000年7月26日。マングローブ保全活動に尽力していたエクアドルの環境活動家ヒオ・フランシスコ・デルガド氏が殺害された日です。彼の志を受け継ぎ、世界中でマングローブの意義が見直される契機となりました。
マングローブとは何か?その生態的意義と構造的な特殊性
マングローブとは、熱帯・亜熱帯の河口汽水域に生息する耐塩性植物の総称であり、同時にその群落全体を指します。代表的な種には、メヒルギ、オヒルギ、ヤエヤマヒルギなどがあり、これらは独特の呼吸根や板根を持ち、潮の満ち引きの中でも生き抜く高度な適応機能を有しています。
このような環境は、**「陸と海をつなぐ生命の境界線」**と称され、多種多様な生物にとって欠かせない生息地です。
地球環境にとっての“グリーンインフラ”——マングローブの4つの社会的価値
1. 生物多様性の温床としての役割
マングローブ林は、海洋生物の産卵・成育の場として機能し、魚類・甲殻類・鳥類・哺乳類など、多様な生物が共生しています。このことから、マングローブは「海の保育園」とも呼ばれ、沿岸漁業の持続性にも直結する重要な生態系です。
2. 自然災害からの防御——“緑の防波堤”
津波・高潮・台風などの自然災害に対して、マングローブは波のエネルギーを吸収・緩和する役割を果たします。特にインド洋大津波(2004年)では、マングローブに覆われた地域の被害が比較的小さかったことから、自然災害リスクを低減する“自然のインフラ”としての意義が強調されるようになりました。
3. 気候変動緩和に寄与する「ブルーカーボン」
マングローブは、CO₂の吸収・固定能力が非常に高く、同じ面積の熱帯雨林の3〜5倍の炭素を土壌に蓄積することが明らかになっています。このため、温室効果ガス排出抑制の観点からも、**気候変動対策の重要な自然解決策(Nature-based Solutions)**として注目されています。
4. 地域経済と文化への貢献
多くの沿岸地域では、マングローブが漁業、観光、薬草資源などの基盤となっています。また、マングローブを守ることは、地域住民の生活や伝統文化の保全にもつながります。エコツーリズムや環境教育の場としての活用も広がりを見せています。
世界規模で進むマングローブの減少と、立ち上がる保全の潮流
マングローブの森林面積は、1950年代から急激に減少しており、その背景には、エビの養殖池造成、農地開発、リゾート開発、違法伐採などがあります。FAO(国際連合食糧農業機関)の報告では、過去40年で世界のマングローブ面積の35%以上が失われたとされています。
この危機に対し、国際的な保全ネットワークが立ち上がり、たとえばインドネシアでは100万本規模の植林活動が実施され、日本のNGO・大学なども国際協力の枠組みで科学的知見と地域参加型の保全手法を支援しています。
個人としてできること——意識と行動の変化が未来を変える
マングローブを守ることは、地球環境全体を守ることに直結しています。私たちができることは、次のようなシンプルかつ持続可能な行動です。
-
マングローブ保全活動に取り組む団体への寄付や署名の協力
-
サステナブルな海産物を選ぶことで、破壊的な漁業や養殖を抑制する
-
マングローブに関する知識を子どもや次世代に伝える教育活動への参加
-
環境をテーマとしたイベントや講演に積極的に参加・共有する
日々の選択が、気候変動への強靭な社会をつくる一歩になるのです。
読者へのメッセージ
「国際マングローブの日」は、一見静かに見える海辺の森にこそ、人類の未来を守るヒントが詰まっていることを思い出させてくれる大切な日です。自然の声なき声に耳を傾け、行動することが、次の世代へと続く希望の一歩になります。
マングローブがある風景は、ただ美しいだけではありません。それは、私たちが生きる地球が本来持っているレジリエンス(回復力)そのものなのです。
この機会に、ぜひ一度、マングローブの存在に意識を向けてみてください。
コメント
コメントを投稿