漢字から生まれた二つの「かな」
平安時代以前、日本ではすべての文書を漢字で書いていました。しかし、漢字は中国語の音と意味を伝えるものであり、日本語の表現には合わない部分が多く存在していました。
そこで、日本人は漢字を工夫して日本語に合うように変形させ、「仮名(かな)」という新たな文字体系を生み出します。
● ひらがな:漢字の草書体を崩して作られた
ひらがなは、主に貴族や女性たちの間で使われるようになった文字で、漢字の草書(流れるような筆記体)から生まれました。たとえば:
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「あ」は漢字「安」から
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「い」は「以」から
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「え」は「衣」から
このように、柔らかく曲線の多い形状が特徴で、当時「女手(おんなで)」と呼ばれていました。
● カタカナ:漢字の一部分を抜き出して作られた
カタカナは、主に僧侶や学者たちが、経典の注釈や読みを記すために考案した文字です。漢字の一部だけを取り出して簡略化したもので、見た目も直線的でシャープなのが特徴です。たとえば:
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「ア」は漢字「安」の一部
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「イ」は「以」の一部
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「エ」は「江」の一部
つまり、「あ」と「ア」も、「い」と「イ」も、どちらも「安」や「以」などの漢字をルーツにしていながら、それぞれ違う形で進化したのです。
同じ漢字が、ひらがなとカタカナに分かれた例
一部の文字は、同じ元の漢字からひらがなとカタカナの両方が派生していることが知られています。代表的な例をいくつか挙げると:
元の漢字 | ひらがな | カタカナ |
---|---|---|
安 | あ | ア |
以 | い | イ |
宇 | う | ウ |
衣 | え | エ |
於 | お | オ |
このように、同じ漢字が使われながらも、全く違う造形に発展していったのです。
なぜ分かれた?用途と階層の違い
ひらがなは文学や私的な文書、特に女性による手紙や詩歌などに多用され、「源氏物語」などがその代表例です。一方でカタカナは、経典の読みや注釈を記すための実用的な文字であり、男性中心の公的な場での使用が多く見られました。
時代が進むと、それぞれの文字が補完し合うようになり、現代のような「ひらがな=助詞・送り仮名、カタカナ=外来語・擬音語」といった用途の棲み分けが確立されたのです。
読者へのメッセージ
「ひらがな」と「カタカナ」、普段何気なく使っている文字たちにも、深い歴史と知恵が詰まっています。日本語という言語が、外国由来の漢字をいかに自分たちの文化に取り込んできたか。その工夫と創造力を知ることで、ふだんの言葉の世界が少し違って見えるかもしれません。
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